オートバイのエンジンを掛けるとき、レバーを足で踏み下ろして掛けるやり方を「キック式」と言います。たいていのオートバイはキックレバーが車体の右側にあり、オートバイにまたがって右足で掛けます。
1980年代までのヨーロッパのオフロードバイクの多くは、キックレバーが車体の左側にありました。オフロードの性能を突き詰めていくとサスペンションのストロークが長くなるなどして、車高・シート高が相当高くなります。950mm程の高さのシートをまたがってキックするのは平地でも厳しい作業です。斜面で止まってしまい再始動する場合などは更に難しくなります。左キックだとオートバイにまたがらなくてもエンジンを掛けることができます。
1980年代にオートバイに乗り始め、悪路や野山を走ることに興味を覚えた私は、雑誌の記事や小説、それと友人の影響からヨーロッパのオフロードバイク、特にエンデューロと呼ばれる長時間走行用のオートバイに惹かれていきました。それらはすべて左キックでした。
1990年代に入ると、左キックのオフロードバイクはどんどん少なくなっていきます。オフロードバイクが一番売れる国の消費者の嗜好に合わせたという話しを聞きます。あこがれていたKTM社(オーストリア)製の250ccエンデューロ車が1990年式より右キックに変更されたのはショックでした。あわてて1989年式の左キック車の中古車を買い、私の左キック体験が始まりました。
今では左キックのオフロードバイクはほとんどなくなってしまいました。技術の進歩からかシート高も低くなり、右キックでも以前より始動しやすくなっているようです。また、環境問題から4ストローク車が主流になりつつあり、ワンタッチで始動できるセルモーター装備が増えていますので、キックがどちら側にあるかなんてどうでもいいことになってしまいました。