毛無峠でトレールライディング

1998.7.4-7.5.

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Photo by K.Toyoda・・・Special Thanks!

 旧友に会うと「面白いイベントがあったら教えてよ」というのが最近の私の習慣となっているが、いざ誘ってもらってもなかなか出かけられなくて、向こうもそれが分かっているからなかなか誘ってくれないという悪循環に陥っている。そんな中、バックオフ誌で有名なクラッシャー大西さんやもんがぁ〜さとみさん(急に旧友夫人となった)たちが長野県に集まるという話しを教えてくれた。峠から下りたところでキャンプし、翌日も走るという。ここのところずっとコースや河原ばかりだったので、久びさのトレールライディングだ。友人S氏を誘って行くことにした。

 ところがS氏はキャンプまたは車中泊と聞いてあっさりリタイヤした。この人、かつて北海道のレース専門誌に「若手実力派」と紹介されたことがあるほどで、走りに集中するためには絶対に宿に泊まる、という考えなのだ。だからパリダカなどのラリーレイドにも全く興味を示さない。彼ほどのレベルになると確かにそうなのかもしれない。

 S氏が行かないからと自分までリタイヤするのは悔しいので、一人で行くことにした。ところが当日はものすごい猛暑。午前中に用事を済ませ、いざ出発しようとしたらあまりの暑さに気分が悪くなっていったん昼寝。毛無峠での集合時刻には絶対に間に合わない。まあレースじゃないし、遅れても「やっぱり来なかったか」ですむだろうから、あとから行けばいいや、ということにしておいた(一応私もちゃんとした大人なので、携帯電話で連絡しようと何度がトライしたが不通だった)。

 猛暑の大渋滞の中を相模湖インターまで這うように進む。中央高速に乗ってようやく気分良く流れ出す。非力なトランスポーターは上り坂では50キロ近くまでスピードが落ちてしまうこともあるが、空いた道ではそれほど苦にならない。休憩を一回だけに押さえ長野県に突入するが、日没には間に合わずあたりは闇に包まれてしまった。

 2輪用のツーリングマップと道路標示を頼りに峠に向かう。しかし、集落を抜け山道に入ったとたん、通行止の柵が立ちふさがった。迂回路の表示は無く、地図を見ても林道しかない。柵をどけてゆっくり進んでみるが、数キロ先で本当に工事中となり通り抜けることは出来なかった。がっくりして戻り、林道の入り口まで行ってクルマを停める。万一合流できなかった時のためにと、コンビニでおにぎりや焼き鳥の缶詰、ビール数本を買っておいたのだがまさかこれだけになるとは・・・町まで下りるのも面倒なのでその場で晩餐とし、そのまま寝てしまった。数年前には四国の山中で軽トラックのキャビンに寝ていた。それに比べれば都ホテルに泊まっているようなものだ。

 雨や風の音に起こされては眠り・・・を繰り返し、何回目かで時計を見ると5時半だった。思い切って起きあがり、エンデューロバイク−−KTM125EXC−−をクルマから降ろす。ストレッチをしながら着替え、プロテクターを身につける。霧がかかっていて体が濡れるのでエンデューロジャケットを上から羽織る。混合ガソリンを満タンにし、大きめのウェストバッグにいつもより多めに工具を入れ、タイヤの空気圧とラジエターの水をチェックする。水筒に水を入れ、ウエストバッグの左側にくくりつける。左キックのマシンの場合、水筒を付けるときは必ず左側になるようにしている。

 KTMの左側に立ち、始動前の“儀式”−−マシンをいったん倒す−−を行う。1990年の日高エンデューロでトシさんにこれを教わってから、エンジンが冷えているときの始動では必ずこの儀式を行っている。右手でキックペダルを出し、マシンに跨らずに右足でグン!と踏みおろす。2回目で「ボボボ・・・ッ・・ボバーン!」と来たので「バーン!、バーン!」とレーシングをしながら屈みこんでエンジン周辺のチェック。オイル漏れやねじのゆるみがないかを見る。

 思えば林道を走るのは数年ぶり、125に乗り換えてからは初めてだ。おっかなびっくりになりすぎないようメリハリをつけることを心がけてスタート。小石が浮いた林道の心許ない接地感にしばらく悩むが、別にレースではないのだからと開き直り、マシンを直立にしたときだけ大きくスロットルを開けて加速感を楽しみ、コーナーでは思いっきり徐行する。やがて勘を取り戻して荒っぽい走りも出来るようになってきた(遅いんだけど)。

 林道を過ぎ、峠に着いたがものすごい霧で何も見えない。鉱山跡まで下りてみるが何も見えないので引き返し、しばらくあたりをうろうろする。きっと天気が悪いので屋根のある場所に移動してテントを張ったのだろうと思い、山菜採りの人に聞いてみるが近所にそれらしい場所はないとのこと。ガソリンも無くなりそうなのでいったんクルマまで戻り、補給してからもう一回峠に行ってみることにする。もう皆に会うことは半分どうでも良くなっていた。自分一人でここまで来て、早朝から一人で走る。それだけで十分になっていた。

 満タンになったKTMをUターンさせ、再スタート。今度は路面の雰囲気もだいたい分かっているし、体も慣れているので最初からスピードを上げる(遅いんだけど)。昔丹沢ですれ違ったKTMを思い出す。あのKTMも一人で走っていた。

 峠に着くと、今度は霧もなく遠くまできれいに見通せた。下を見るとカラフルなテントが散らばっている。「いた!」・・・会えた、という気持ちと、終わってしまったような気持ちが交錯する。鉱山跡へのスイッチバックを下りていき、旧友を始め皆に挨拶すると、缶ビールをもらって一気に飲んだ。


 ・・・と、ここで終わればカッコイイ(?)のだけど、その後ヘロヘロになりながらみんなについていったのでした。


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