メルセデス・ベンツのトランスポーター その5


●車検

 板がむき出しの荷室にカーペットを敷いたり、バイクを載せたときにタイダウンをかけられるようにフックを付けるぐらいで、クルマの基本的なところには何も手を入れなかった。というより、手の入れようがなかった。

 一年経って、初の車検となった。電話で日時の予約をする。

「どちらの会社の方ですか?」
「いえ・・・個人ですが・・・」
「おクルマは?」
「ベンツのトランスポーターです」
「ああ・・・」

 数日後、工場にクルマを持って行き、車検証を預ける。

「お客さん、締め日はいつですか?」

「え?締め日?・・・個人だから・・・締め日って言われても・・・」
「うーん、請求書を出すのにねえ・・・」
「現金ですぐ払いますよ」

「・・・じゃあ、月末締めでいいですね」

「・・・」

 また数日後、車検から上がってきたクルマは、純正の鉄ホイールがピカピカの銀色に塗装され、ホイールナットには確認の黄色ペイントがされているという、「ぴかぴかトラック」そのものの姿であった。後日郵送されてきた請求書には、今まで乗っていた乗用車の整備代からは想像できないような金額が書かれていた。おそらく長距離トラックと同じ基準の整備をしているのだろう・・・

 翌年、2回目の車検を迎えた(11ナンバーは毎年車検)。前年より更に費用がかかっていることにびっくりする。この2回の車検で、そこそこの中古車が買えるくらいの金額がかかってしまった。おそらく来年はもっとかかるだろう。年に一万キロも走っていないのに、数万キロ〜それ以上走る長距離トラックと同じ整備をされてはかなわない。しかし、元々扱い店はそういう(法人向けの)会社だし、考えてみればもともとそういうクルマなのだから仕方がないことなのかもしれない。しかし、このままでは生活に支障が生じる。次の車検までにはなんとかしなくては・・・との思いを強くした。

 喉元過ぎれば、でしばらくの間忘れていたが、3回目の車検が近づく頃、「もうあのディーラーに頼むのは止めよう」と再び決意し、工場探しを始める。しかし、近所の整備工場では外車というだけで断られ、だんだん疲れてきたところで友人からある整備工場を紹介してもらった。ここのオーナーはKTMライダーでもあり、富士山に通っている人の間では有名な方で、思えばなんで今まで気づかなかったのかと自分の融通効かなさ?にがっかりした。

 この整備工場には2回、車検をお願いした。「前の車検から1万キロも乗ってないんで・・・」というと「じゃあ(車検に)通るくらいに整備しとけばいいですね」と言われ、涙が出そうになったことを覚えている。費用もディーラーの約半分だった。ディーラーが暴利をむさぼっているというつもりはない。商売の主な対象から外れたユーザーの悩みとか、クルマの使われ方に関わらず、激しい乗り方に合わせて画一的な整備をされてしまうことへの不満が積み重なっていたのだ。

 その後、知り合いに別の整備工場を紹介してもらい、5回目の車検をそちらにお願いすると同時に念願の88ナンバーに変更。ついでに念願だったパーツをいろいろと付けてもらい、現在に至っている。

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