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大黒屋光太夫

 吉村昭『大黒屋光太夫』を読了。土曜日に医者に行くときに読み始め、後半は面白くなって休憩することも出来なくなってしまい、風呂に持って行き中で一時間近く読んでようやく読み終わった。作法としては最悪だろうが体にはいいかもな。

 椎名誠の『シベリア追跡』で大黒屋光太夫を知り、その後井上靖『おろしや国酔夢譚』も確か読んだと思う。映画もビデオを借りてきて観た。江戸時代に船が嵐で難破しアリューシャン列島に流された日本人が、9年以上の歳月をかけて日本に戻ったという実話だ。その間、アリューシャン列島からロシア本土に行くはずの船が目の前で破船したためにロシア人とともに船を作って島を脱出したり、ロシア皇帝に帰国を願い出るために極寒のシベリアを横断するなどの壮大な実話である。

 昔、中学生に「ラクスマン根室に来航」などと教えたことがあったが、そのたった一行の裏の一部分にはこのような大きな話しが潜んでいたのだった。最近は「ゆとり教育」でペリーしか教えていないかもしれないな。ジョン万次郎は中学だったか高校だったかの教科書で載っているのを見た覚えがあるが、光太夫はどうだったろう。載っていないとしたらやはりアレのせいなのだろうか。

 『おろしや国酔夢譚』『シベリア追跡』の頃にはまだ分かっていなかったことが吉村昭の手によって明らかになり、そのお陰で特に帰国後のシーンはそれまでとはまったく違った解釈になっている。私も長いこと『おろしや国酔夢譚』を読んだからいいやと思っていたが、もっと早く読むべきだった。

 当初は十数人居た一行だが、病に倒れたり、絶望して改宗したためロシアに残留し生き別れになったして、根室に戻ったときは3人、しかし直後に1人が倒れ江戸に戻ったのは2人だけだった。残った2人とそれ以外の者たちの何が違ったのだろうとふと考える。年齢的なものもあったし運ももちろんあっただろう。しかし、決定的に光太夫が強いと思うのは「こうありたい」「こうしたい」という意思の強さと、それを実現する力だ。冷静に状況を判断しつつ、自分の望む方向を見失わずに動くこと。この力が光太夫には非常に強かったように感じる。これらの本が執筆されるときの基本資料になったのが、光太夫から聞き取りをした各書物が大半であるということを差し引いても、非常に強い力を感じる。

 「こうありたい」と最初に的確にイメージを持てるかどうか・・・なのかなと思うのであった。

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