2009年2月12日

ベントラ童話2

 昔、港町のはずれに中年男がいた。男は車や単車に乗って幸せを感じていた。
しかし車や単車が古くなると幸せな気分は去ってしまった。

 中年男の前に不思議な老人が現れ、「新しい車をやろうか」と言った。しかし中年男は
断った。「車や単車での幸せは長くは続きません。車は必要なときに借りればいいの
です。あなたは仙人でしょう。私もあなたのような仙人になりたい」

 仙人は男を山に連れて行き、修行が始まった。何があっても一言も口をきいては
いけないという修行だった。男はその通りにしていたが、かつて乗っていた商用車
が目の前で解体されるのを見て思わず「ベンツ・・・」と声を発してしまった。
気が付くとそこは港町の外れで、今まで見ていた光景はすべて仙人が作り出した
ものだった。

「どうだ。とても仙人にはなれまい」
「はい。とても黙っている訳にはいきませんでした」
「あのまま何も言わなければ最新型をやろうと思ったのだが・・・これからいったい
なにになるのだ」
「何になっても、人間らしい正直な暮らしをするつもりです」
「では、箱根の西のふもとにあるわしの商用車をお前にやろう。今頃はステムシールが
交換されてガラガラと賑やかな音を立てているだろう」

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